あだたら御影(あだたらみかげ)

◆ 採掘地・丁場

福島県二本松市から本宮市にかかるる安達太良山の裾野

◆ 主な特徴

福島県中部にある安達太良山の裾野から産出する花崗岩。優れた耐久性と細やかで均一な模様を特徴とし、変色が少なく、光沢にも優れています。落ち着いた風合い・色合いは、墓石やモニュメント等に適しています。

◆ あだたら御影の有名な使用例

あだたら御影の岩質データ

分類:花崗岩

見掛け比重:2.625(t/㎥)

吸水率:0.304(%)

圧縮強度:119.16(N/㎟)


福島県産「あだたら御影」

高村光太郎ゆかりの名山で採れる上品な石目を持つ「あだたら御影」

「安太多良の嶺に臥す鹿猪のありつつも 吾は到らむ寝処な去りそね」
――これは『万葉集』に収められている一首で、福島県中部にある安達太良山を詠んだ歌である。『万葉集』にはこのほかにも、安達太良山を詠んだ歌が二首ある。

「あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川。」
――この一節が何度か繰り返されるのは、高村光太郎の詩『智恵子抄』の「樹下の二人」である。福島県二本松市には智恵子の実家があり、光太郎と智恵子は実家の裏山から、安達太良山と阿武隈川を眺めたのだった。

その裏山は「智恵子の杜公園」として整備されており、日本百名山に名を連ねる安達太良山は、恋人たちの聖地としても行楽客を迎えている。
この安達太良山の裾野から産出されているのが「あだたら御影」である。細やかで均一な石目が特徴の、この白御影石は、その落ち着いた上品な色合いと経年変化の少ない優れた耐久性が相まって、墓石・記念碑・石像などに幅広く用いられている。研磨すれば美しい光沢が長持ちし、ノミ切りすれば趣のある風合いが生まれる石である。

万葉集や高村光太郎の詩にも詠まれた安達太良山の裾野にある丁場

「あだたら御影」を採掘しているのは、株式会社福石石材(福島県田村市/佐藤利男社長)。同社(販売は株式会社フクイシ)では、浮金石と深山ふぶきの採掘も行なっており、黒系(浮金石)、中間色系(深山ふぶき)、白系(あだたら御影)と、バラエティに富んだ石種を生産している。福島は特色のある多種多様な石種が採掘されている日本有数の産地で、同社は自社採掘の石材3種だけでなく、そのほかの福島産石材なども取り扱っており、広大な敷地に整備された自社工場は連日のように稼働し続けているという。

3種類の銘石を採掘していることのメリットは大きいようである。同社の佐藤社長は次のように話す。
「あだたら御影や深山ふぶきの採掘は一年を通して行なえますが、浮金石の丁場は標高が高いために冬場は凍結してしまい、作業ができなくなります。季節や丁場の都合に応じて職人をうまくシフトし、3つの丁場を無理なく効率よく稼働させる体制をとっています。
あだたら御影の採掘事業を前事業者から引き継いだのが2009年で、かれこれ12年が経ちます。それ以前にも原石を仕入れ、加工して製品出荷していましたから、この石の扱いやすさはよくわかっていましたし、一定のニーズがあることも把握できていました。
埋蔵量は非常に豊富で、枯渇の心配がありません。丁場においては山づくりの作業期間がどうしても必要になりますから、排水と排土の対策もしっかりとりながら、年間3~4千才の生産体制で採掘を行なっています」。

山の表層を取り除く「山づくり」を並行させながら、無理のない計画的な採石が行なわれている

 

安心して使える品質の高さ

あだたら御影の丁場に行くと、山の上のほうは茶色い土の層が見える。花崗岩が風化して真砂土になっているこの層をあらかじめ取り除く必要があり、この「山づくり」の作業に大きな時間と労力が割かれている。そうした「山づくり」のための先行投資を抜きにしては、健全な採石事業を続けていくことはできない。

「あだたら御影はタマなどの難点が少ない石で、歩留まりも35%前後と良好です。ワイヤーソーを軸にしていることもあって、昔よりも歩留まりは高くなっています。
あだたら御影を手頃な価格にできる要因のひとつは、この歩留まりの良さですね。石塔にも外柵にも用いやすい価格帯だと思いますし、和型にも洋型にも使っていただいています。
あだたら御影は採掘や加工においても扱いやすい石です。深山ふぶきの場合には、セリ矢の間隔を狭め、深く入れる必要がありますが、この石は石目を読めば、とても割りやすい性質を持っています」。

ワイヤーソーを軸にした採石が行なわれている丁場

佐藤社長が話すように、難点の少なさや扱いやすさもあだたら御影の特徴で、小売石材店にとっては安心感につながり、採掘元にとってはコスト抑制につながっている。石目や色合いにクセもなく、また大材も採れるために、目合わせや色合わせで苦労することも少ないようだ。

難点の少ない「あだたら御影」の乱尺材

ワイヤーソーの導入によって、さらに歩留まりを高めることができており、作業の効率化と同時に職人の安全性にも配慮した採石が行なわれている。同社では3つの丁場を持っているために、丁場の状況に応じてワイヤーソーなどの機材をうまく回すことができる利点もある。複数の丁場を抱えるメリットを最大限に活かしながら、効率よく機材と職人を配置しているわけである。

「あだたら御影」の岩盤の特徴を熟知した職人たち

文筆家で登山家の深田久弥は、その著書『日本百名山』の中で、実際に登頂した数々の山の中から、一定の標高を持ち、「品格・歴史・個性」を兼ね備えた山を百座選んでいる。そのうち、福島県の磐梯朝日国立公園に位置する山は4座あり、吾妻山や磐梯山などと並んで安達太良山も選ばれている。

「阿多多羅山の山の上に 毎日出てゐる青い空が 智恵子のほんとの空だといふ」
――高村光太郎の「あどけない話」という小詩にも安達太良山が登場するこんな一節がある。ここに漂う静謐なイメージは、あだたら御影の石目が持つ上品さにも通じるところがあるように感じられる。

 

株式会社フクイシ

福島県田村市船引町堀越字堰下195
電話:0247-85-2914

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