北木石(きたぎいし)
◆ 採掘地・丁場
岡山県笠岡市北木島
中目
瀬戸赤
◆ 主な特徴
白色を主に、中目と瀬戸白、瀬戸赤、サビ石の4種類ありますが、今は中目と瀬戸赤のみ採掘されています。光沢と粘りを特徴とし、墓石、建築、歴史的建造物など幅広い分野で使用されています。
◆ 北木石の有名な使用例
大阪城石垣、伊勢神宮参拝堂の石灯籠、明治神宮神宮橋 など
北木石の岩質データ
分類:花崗岩
【北木石中目】
見掛け比重:2.62(t/㎥)
吸水率:0.320(%)
圧縮強度:147(N/㎟)
銘石のリブランド化 を目指して
岡山県笠岡市の笠岡港から南に約15㎞のところにある北木島は、昔から「石の島」と呼ばれている。江戸時代より「北木石」が採れて栄えたこの島では、日本で最初に採石業の組合ができたとされ、組合登録されていた採石場は最盛期には127カ所あったという。それが現在は、白手の北木石を常時採石している事業者は1社だけとなっており、他には「瀬戸赤」と呼ばれる赤手の石を採石しているところがもう1社あるのみ。白手の北木石を採石しているのは鶴田石材株式会社(岡山県笠岡市)で、代表取締役である鶴田康範氏は124年目を迎えた同社の4代目として家業を継いでいるが、最初は継ぐことを考えておらず、両親からも歓迎されなかったという。
「北木石は上の層はサビが出やすいため、良質な石を採るには下へ下へと掘り進んでいく必要があります。非常に危険を伴いますし、墓石に使えるのは採掘量の10%程度ですから、とてもハイリスクな仕事と言えます。それでも昔は墓石以外の造園、建築、土木などの仕事の需要があり、捨てる石もなく、ハイリタ ーンがあったそうです。ところが今は墓石以外の需要がほとんどなく、深く狭い場所を堀っているため、キズの多い場所ではノーリターンの時もあります。
それで採石の仕事をこれから続けていくことに父はもちろん私も消極的だったわけですが、北木石のことを調べていくとすごい歴史があるわけですね。江戸初期には大阪城の桜門に使われ、幕末後の明治期には日本銀行本店をはじめ東京エリアでも多くの実績を遺しています。この銘石の伝統を絶やしてしまうことは、この島の大きな損失になるのではないか。そう思うようになってきた折にベテラン従業員の一人が骨折して私が島に戻ることになったわけです。当時していた別の仕事は他の人でもできるでしょうが、北木石を守る仕事は自分以外の人間にはできないと考えました。」
北木石は墓石用の石とそれ以外の用途の石は本来分けて流通されるべきだったと鶴田氏は言う。ところが忙しかった時代には需要に供給が追い付かず、土木や建築用に回される石も墓石用として出す丁場もあり、それが北木石に“変色する石”というレッテルが貼られる原因になったという。今なお残るそのレッテルをはがすために鶴田氏が取り組んでいるのはリブランド化である。
「弊社の石の魅力は品質にあります。深い層から掘り出して厳選した石であれば、銘石の名にふさわしいクオリティがあるのですが、残念ながらそうでない石も数多く流通した時代がありました。どれほど深く採掘しているか、それを見てもらえれば我々が品質にこだわってきたことがわかると思いますし、採石場の景観は品質の証ともいえるでしょう。」
観光資源としても歴史的価値のある丁場
鶴田石材が採掘する北木石は笠岡市のブランドに認定されている。また、北木島の採石場及び跡地も「かさおかブランド」の観光部門で認定されている。その採石場の景観を見るため、笠岡港からフェリーに乗った。瀬戸内の穏やかな海を見ながら50分ほどで北木島に着く。鶴田石材の工場管理者である関谷正史氏に案内してもらう。金風呂という港から採石場まではすぐで、笠岡市によって採石場は観光資源と位置付けられたことにより、丁場までの細い道も拡張工事されるとのこと。そのための測量もすでに行なわれたという。車を降りて少し歩くと、目の前に現れたのは絶景である。
下を覗くと、足がすくんでしまうほどの断崖絶壁の上に立っていることに気づく。深緑色をした水深40mの小さな丁場湖が見える。聞けば海面下70mの深さまで掘られているとのことで、最大高低差は約200mもあるという。鶴田氏が語っていた「景観=品質」という言葉の意味が、この景色を見れば一目瞭然である。この雄大な景観は人の手によってできたものではあるが、確かに「かさおかブランド」に認定されるだけの観光資源といえるだろう。
ジェットバーナーで焼き切った石をワイヤーで釣り上げる形での採石で、これだけ深く掘り下げていく丁場ゆえに危険と隣り合わせの仕事である。関谷氏は崖の縁ギリギリに立ちながら説明してくれるのだが、見ているほうが冷や冷やしてしまう。現在採石中の場所はまばゆいばかりの白い岩肌を見せている。
「少し離れただけで石の質が変わってくることもあります。北木石は中目の白御影石なので、ぼんやりとした黒い塊も目立ってしまいますし、うっすらとしたキズが出る場合もあります。すぐ近くでいい石が採れたからここも同じようにいくだろうと思っているとダメだったりしますし、逆にキズが多い層の下にいい状態の石が眠っていることもあります。」と関谷氏。石は割ってみないとわからないという言葉通りの現状に、採石業の苦労がうかがえる。
同社のサイトはオンラインショップになっていて、北木石のプレートやコースターなどが購入できるが、そこには「北木島日帰りツアー」という変わった商品もカートに入れられるようになっている。一般の人がサイトから丁場見学を申し込める仕組みになっているのである。NHKなどの各メディアにも取り上げられたこともあって、この圧倒的な景観をひと目見たいというエンドユーザーも少なくないようだ。 北木島の採石場が持つ文化的価値は景観ばかりではない。採掘作業から生まれた“石切り唄”も今に伝えられている。周囲を御影石に囲まれた音響効果抜群のこの舞台で、その石切り唄も披露される。有形・無形の地域資源がこの採石場にはあるのだ。
丁場を見た観光客は工場で石割体験もできる。「特にお子さんがとても喜んでくれます」と関谷氏。東京から見学に来たある人からは小割した石を自宅に届けて欲しいという依頼もあったという。 長い歴史と高いストーリー性を持つ北木石は、メディア露出の多さも相まって一般のエンドユーザーからの引き合いも多いとのこと。過酷な環境で北木石の歴史を守り続ける同社の存在は、笠岡市の観光資源としてのみならず、石材業界にとっても重要である。
鶴田石材株式会社
岡山県笠岡市北木島町8703
電話:0865-68-2120