「ありがとう」があふれる石屋を目指して
愛知県岡崎市、知多市に店舗を持つ㈲稲垣石材店。
優れた石工技術を持つ初代・稲垣清市氏が昭和2年に創業して以来、石彫刻・記念碑・神社仏閣用品・墓石など石に関する幅広い仕事を展開してきた。二代目・稲垣英夫氏より代を受け継ぎ、現在、同社の代表を務める三代目・稲垣寿氏に石屋という仕事への想い・姿勢などについて語っていただいた。
稲垣 寿(いながき ひさし) さん
昭和40年生まれ。昭和2年に創業した㈲稲垣石材店の三代目。大学卒業後、大手石材会社で三年間、営業員としてお墓販売の経験を積む。「ありがとう、素敵なお墓ができたね」とお客様に喜んでいただくお墓づくりに力を注いでいる。
――代々続く石材店の後継者として、石材業の道へ進むことに抵抗はなかったですか?
稲垣 そうですね。石屋の息子として生まれ育ってきた、その自然の流れで抵抗なく石材業の道へと進んでいきました。ただ、そのまま家業に入ると甘えてしまうだろうと思い、全国でも有数の大手石材会社に3年間、務めさせていただき、営業の勉強をさせていただきました。
その会社は非常に優秀な先輩が多く、とても真似できないようなタイプばかりが揃っていました。数字的な目標もあり、プレッシャーとも戦いながら、とにかく毎日必死になって営業をしていましたね。
お客様からお墓の話をうかがう際には、そのご家族・ご家庭の話にもなってきます。中には、他の人には言いたくないようなこともあるかもしれません。そういったお話をしていただけるに値する営業員になるためには、何より信用していただける人間にならなければなりません。お墓を扱う姿勢、営業員としての立ち居振る舞いなど、本当に多くのことを学ばせていただいた3年間でした。
――当時の思い出深いエピソードを教えてください。
稲垣 入社して間もない頃、お墓をつくるにあたって、土葬されていた旦那様のご遺骨を掘り起こす仕事に携わらせていただいたことがありました。その時、奥様と息子さんが立ち会っていらっしゃったのですが、その旦那様が亡くなられたときに、息子さんは奥様のお腹の中にいらっしゃったそうです。
息子さんにとってお父さんは写真でしか知らない存在だった。そして、その日に初めてご遺骨を見ることでお父さんと対面されることとなりました。そのとき、息子さんは、これまでの月日の流れ、お母さんのご苦労など、いろいろと思いめぐらせていたと思います。ご遺骨を見つめながら、涙を流されていました。
その姿を見たとき、お墓をつくる私たちの仕事は、亡くなられた大切なご家族やご先祖を祀る、その気持ちをお手伝いさせていただく姿勢が大切なんだ。そういった、この仕事の本質の部分を、身をもって学ばせていただきました。このとき教えていただいたことは今でも、お墓づくりやリフォーム、追加彫刻など、あらゆる仕事に向き合う上で大切に守り続けています。
――平成7年に知多店をオープンされました。
稲垣 本店のある岡崎は、石製品における日本三大産地の一つ。全国から岡崎産の石製品を購入しに来ていただける、石材業界では広く知られたまちでもあります。それゆえに、このまま岡崎という名前にあぐらをかいてしまっていてはいけない。そういった不安にも似た感覚が自分の中にあり、新しいことへ挑戦したいという想いのもと、ご縁をいただいて知多店をオープンできることとなりました。
【知多店 外観】もちろん不安もありましたが、地域の方々のおかげにより、20年以上にわたって店舗を継続させることができました。今では地域や学校の行事などにも参加させていただいたりしながら、少しずつですが、地域の方から「石の店いながき」という名前を覚えてもらえるようになってきたことに、とても感謝しています。
――稲垣石材店のこだわり、お墓づくりを進めていく上で心がけていることを教えてください。
稲垣 お客様がお墓づくりを進めていく上で大きな節目となるのがお骨を納めること、いわゆるお墓開き・納骨式になります。多くの方が、この日を迎えるためにお墓をつくることになると思いますが、このお墓開き・納骨式の日に家族みんなで「お墓をつくってよかったね」と思っていただけることが、私たちにとって何よりもの喜びになります。そうなるために、お客様に対してどのようなサポートをしていけば良いかということを常に意識しています。
お客様に対して、お墓づくりの進行状況であったり、工事の進み具合など、できる限りリアルタイムでお伝えするようにし、お墓の完成が楽しみにも感じていただける、そのような流れを意識しながら、お墓開き・納骨式のときに「ありがとう、素敵なお墓ができたね」と家族の皆さんに喜んでいただけるお墓づくりを進めていきたいと思っています。
――節目となる創業100周年も近づいてきています。これからどのような石材店でありたいですか?
稲垣 「ありがとう」という言葉が常にあふれているお店づくりを進めていきたいですね。
そのためにも「どうしたらお客様に喜んでいただけるか」「どうしたらお客様のお役に立つことができるか」を常に考えながら、良いと思ったことはできる限り行動に移していきたい。
100周年を迎える時には、これまで以上にお客様にお店へ気軽に立ち寄っていただき、何気ない会話を楽しんでいただける。そんな温かい空気が流れている石屋になれるよう努力していきたいと思います。
岡崎本店 稲垣石材店
所在地:愛知県岡崎市上佐々木町中切8-5 (石の都・矢作石工団地)
TEL:0564-31-6879
www.stone-world.co.jp/
知多店 石の店いながき
所在地:愛知県知多市大興寺字長根90-1 (知多斎場西入口)
TEL:0562-56-5222
いしマガ取材メモ
稲垣寿さんは難易度の高い墓石業界の資格「お墓ディレクター1級」、「上級終活カウンセラー」を取得されており、地域の方たちに向けてエンディングノートの書き方講座など、終活に関するセミナー講師なども行なっています。各地の石材展示会等にも積極的に足を運んでいるほか、様々なビジネスセミナーも受講されており、とても勉強熱心なタイプの石材店です。
「性分として新しいことが気になるタイプ」とご自身を評していましたが、それも「どうしたらお客様に喜んでいただけるか」「どうしたらお客様のお役に立つことができるか」を常に考え続けているからこその姿勢だと感じます。現在、ご子息も一緒に働き出しており、これからのさらなる飛躍・活躍が期待されます。