姫神小桜(ひめかみこざくら)

◆ 採掘地・丁場

岩手県玉山地区の姫神山麓

◆ 主な特徴

岩手県玉山地区にある姫神山麓から採掘される淡い桜色の花崗岩。墓石材や記念碑、彫刻材等で広く使用されています。

◆ 姫神小桜の有名な使用例

・新渡戸稲造の銅像の台座石(盛岡駅前)

 

姫神小桜の岩質データ

分類:花崗岩

見掛け比重:2.65(t/m3)

吸水率:0.37%

 


岩手県産「姫神小桜」

石川啄木の故郷の銘石

「ふるさとの 山に向かひて 言ふことなし ふるさとの山は ありがたきかな」

この短歌は岩手県出身の石川啄木が詠んだものである。
石川啄木が幼少時代を過ごした故郷は盛岡市渋民(当時の渋民村)で、歌に詠まれている「ふるさとの山」というのは姫神山のことである。姫神山は盛岡駅から北北東約20㎞に位置する山で、この中腹で岩手県の銘石「姫神小桜」が採掘されている。

姫神小桜の丁場にて

 

「かにかくに 渋民村は 恋しかり おもひでの山 おもひでの川」

啄木には望郷の歌が多いが、姫神山は啄木にとって渋民村の象徴的な存在として心に刻まれていたのではないだろうか。姫神山が女山と呼ばれる一方、岩手山は男山と呼ばれてきたが、姫神山はその名にもやさしさを感じさせる響きを持っている。

 

名は体を表す「姫神小桜」

丁場で小割りされた原石

その姫神山で採掘されている「姫神小桜」は淡い桜色を湛えており、温かみが感じられる石目が特徴となっている。「姫神小桜」とは言い得て妙で、白御影石と桜御影石のちょうど中間にあるような独特の色合いである。
採掘元である白椛石材(岩手県盛岡市)の白椛司さんはこう語る。

白椛石材・白椛 司氏

「姫神小桜は発破による採掘ですが、玉石で採れる石なので火薬の量は少なくてすみます。丁場の表層に近いところは玉石で、下のほうに行くと岩盤になっていきます。丸みのある大きめの玉石はいい質のものが多いですね。とはいえ、自然のものですから割ってみないことにはわかりません。いい石が採れた時の喜びはひとしおですが、そうでない場合のほうが多いですから、需要に対してなかなか供給が追い付いていかない状況になることも少なくありません」。

硬度と温かみのある色合いが特徴

白椛さんによると、姫神小桜の用途の9割が墓石材だという。玉石で採れるという特徴を活かして自然石風のお墓に仕立てるニーズもあるようだ。
残り1割は記念碑や敷石などの建築材などに用いられているとのこと。

姫神小桜の使用例 (盛岡市と文京区の友好都市提携記念碑)

「盛岡駅前に新渡戸稲造の銅像がありますが、その台座は姫神小桜です。それから駅前の広場には盛岡市と文京区の友好都市提携記念碑も建っていますが、これにも姫神小桜の自然石が使われています。いろいろな使い方ができる石ですね。
家族規模でやっているような状態ですから、年間の採石量にも限界があります。掘ったところは埋め戻し作業をしなければいけませんから、そうした山作りのために3ヵ月間ほどは石を採れない状態になることもあります」

姫神小桜の使用例(盛岡駅前にある新渡戸稲造の銅像台座)

 

ツヤ持ちの良い硬度の高さと温かみのある色合いが特徴

原石を出荷している同社の取引先は、卸業者のほか自社工場を持つ地元の小売店もいるとのこと。ピーク時の同社の出荷量は月2千才だったというが、最近は均せば月に7百~8百才だという。採石は現在3人体制のため、受注が集中するとどうしても対応が遅れてしまうのが悩みのようでもある。

「25年ほど前には姫神小桜を採掘している業者も10社近くありましたが、現在も採石し続けているのは当社だけになってしまいました。ありがたいことに岩手県内の小売店さんからは『地元の石がなくなっては困る』ということで支持してくれる方もいますし、硬くて風化しにくい石質を評価してくれるお客様もいます。削岩機で作業するとよくわかりますが、本当に硬い石ですよ。19㎜のロッドだとすぐに折れてしまいます。22㎜のロッドだと作業スピードが落ちて本体の摩耗も進むので痛し痒しですが(笑)。建立してから40~50年近く経ったお墓を実際に見てもらえばわかりますが、ツヤがさめないという点は自信がありますね」。

ほのかな桜色を帯びた温かみのある石目と、経年変化に強い硬度を兼ね備えた姫神小桜。岩手県を代表する銘石として、県内で人気が高いのはもちろんのこと、根強い支持層が東日本を中心としたエリアで広がっている。

「需要が広がってきたのはここ10年くらいでしょうか。福島の展示会に出してから興味を持ってくれる方が増えました。福島の山石屋さんにも山を見に来ていただきました。福島は山石屋さんが多いですし、山の組合もありますから、情報交換もよくされていると思いますが、こちらは孤独ですから、励ましの言葉をいただいたり、同じ山石屋の立場からアドバイスをいただいたりするのは、何物にも代えがたいうれしさがありますね」。

燃料代の高騰によってランニングコストがかかるのが悩みだと語る白椛さん。歩留まりは約3割とのことで、ワイヤーソーによる採石も検討したことがあるそうだが、現段階では採算性を考えて見合わせているという。限りある資源を大事に採っていくことで岩手の銘石を守っていこうという姿勢が頼もしく感じられる。

姫神小桜の使用例(石川啄木記念館前の歌碑)

丁場を後にして少し車を走らせると、石川啄木記念館が見えてきた。
館内には、啄木の書簡、ノート、日誌、遺品、写真パネルなどの展示があるほか、敷地内には啄木が代用教員を務めた旧渋民尋常高等小学校や一家が間借りした旧齊藤家が移築されている。記念館に隣接した広場にも、啄木の歌碑が姫神小桜で建てられていた。

 

白椛石材

岩手県盛岡市下田字陣場56-43
電話:019-683-3144

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