銘店“石屋”シリーズ 中澤石材店(愛知県豊田市)

応お客様と顔の見える関係を築いて 大切なお墓を守り続けていきたい

昭和40年代に創業し、現在は二代目の中澤茂政さんが代表を務める中澤石材店は、愛知県の岡崎市に工場を、豊田市に店舗を構えている。お墓の建立と、仏像や狛犬をはじめとする彫刻品の製造を二本柱として、地元に密着しながら営業を続けている。中澤茂政さんに、会社の歴史やお墓づくりに対する想い・こだわりなどについてお話をうかがった。

中澤茂政さん(昭和37年生まれ)
石都と呼ばれる愛知県岡崎市に生まれ、彫刻師である父の背中を見ながら育つ。伝統工芸士、一級石材施工技能士などの資格を所有し、岡崎技術工学院の講師、岡崎石工団地協同組合の副理事長、岡崎石工品伝統工芸士会の会長などを歴任。2024年には厚生労働大臣より「現代の名工」を受章、2025年には経済産業大臣より伝統工芸品に関する表彰を受賞するなど、その優れた技術力は多方面から高く評価されている。

―まずは会社の歴史から教えてください。

中澤 もともとは彫刻師だった父が昭和44年ぐらいに始めた会社です。だから僕は二代目で、物心がついた子どもの頃から、工場の中で職人さんたちに遊んでもらったりしていました。
とにかく僕は、職人さんの仕事を見ているのがおもしろかったんです。だって職人さんの手にかかると、あんなに硬い石がどんどんと形になっていくじゃないですか。子ども心に「すごいなあ、なんであんなことができるんだろう」ってずっと思っていましたよ(笑)。あとはノミを打つ音や、ノミを打つと先っぽから火花が散るんですけど、それを見ているのも好きだったことをおぼえています。

―澤さんご自身の経歴も教えてください。

中澤 僕は18歳の時から父のもとに弟子入りして修業を積みました。そして伝統工芸士や一級技能士などの資格を取得し、そこからしばらくのあいだは彫刻師として全国から仏像や灯籠、狛犬などの注文を受けていました。
そして、自分が40歳になったタイミングでお墓の小売を始めて、その年に豊田市でお店を立ち上げました。ですから今は、工場で彫刻品を製造し、お店で墓石の販売をする。そういったスタイルで石屋業を続けています。

中澤さんが製作した聖観音像

―彫刻のおもしろさはどんなところにありますか?

中澤 とくに仏像をつくるのが好きなんですけど、やっぱり同じものは二度とつくれないってところでしょうね。毎回「今度はどうだ!?」っていうのの繰り返しで、もちろんプレッシャーもあるんですけれど、それ以上に楽しさのほうが大きいんです。
あと人間の体というのは、骨があって筋肉がついていて、そのうえに脂肪と皮膚があるわけですが、彫刻というのはその関係性を勉強し、それを石に移していく作業になるんです。しかし、その時に石が反発するんですよね。一生懸命に石を削ろうとするんだけど、素直にそれを受け入れてくれない(笑)。そういう自分の思い通りにならないところもおもしろいです。

―ではその一方で、お墓の魅力はなんでしょう?

中澤 彫刻の仕事との一番の違いは、エンドユーザーさんと知り合えることですね。彫刻の仕事は、基本的にBtoB(企業間の取り引き)の世界でしたから。お墓の販売を本格的に始めたことで、また違う世界が見えてきたと思います。
あと、彫刻の場合は、ある程度かたちが決まっているんですけれど、お墓はすごく自由度が高い。もちろん宗教的な決まりごとはありますが、そこも大きな魅力だと思います。

中澤さんが製作した宝篋印塔(ほうきょういんとう)

―お墓を建てるまでの、おおよその流れを教えてください。

中澤 お墓はお客様が100人いたら100通りの建て方がありますから、まずはお客様の声に耳を傾ける。そのうえで、お客様の想いを汲み取りながらデザインの提案を行なっていきます。
ちなみに価格の相談はそのあと。今はいろんな石の選択肢がありますから、ご予算に合わせて3種類ほどセレクトし、それぞれの石の特徴などをしっかりと説明していきます。
それから、うちは図面も自分で引いています。そしてなによりも、お客様からの質問には常に真摯に答える。知らないことはちゃんと知らないと言って、絶対に嘘はつかない。そうやって信頼関係を築いていくことを、なによりも大切にしています。

―お墓を建てることの意義について、中澤さんはどのようにお考えですか?

中澤 僕はお墓の販売を始めた時に、お寺さんで浄土真宗と浄土宗の勉強をさせてもらったことがあるんです。その時に「倶会一処(くえいっしょ)」という考え方を知り、それが地面にあることも教えてもらいました。
それで、ここからは僕が勝手に思っていることなのですが、その地面の上に建っているお墓というのは、一種の通信塔みたいなものなのではないでしょうか。つまり、すべてのご先祖様が土の中にいて、お墓を通して生きている僕たちとつながっている。それがお墓という存在の大きな意義なんだと考えています。
しかし、お墓にしても仏像などにしても、僕たちがつくっているのは、あくまでも、ただの石の彫り物に過ぎません。それが本当の意味でお墓や仏像になるのは、お客様が手を合わせてくれた時からです。ですから「自分たち石屋がつくっているんだ」と考えるのは大変におこがましいこと。その点だけは勘違いしないように、これからも気をつけていきたいと思っています。

―では最後に、今後の目標をお聞かせください。

中澤 まず一つには、先輩方から受け継いできたこの石屋の技術を、これからの若い世代の人たちに、しっかりと受け渡していきたいです。僕たちは先輩方の技術を見て盗まなきゃ、一人前になれなかった世代ですが、今はそういう時代でもありませんからね。できるだけ世代の垣根を取り払いつつ、いろんなヒントを提供していきたいと考えています。
そしてもう一つは、これからも自分の目の届く範囲で仕事を続けていくこと。僕たちの仕事って、基本的にはお墓を建てて、そのお墓をしっかり見守っていくことだと思うんです。だから常に近くにいて、なにかあった時には、すぐに駆けつけられるようにしておきたい。そうやって、うちでお墓を建ててくださったお客様に、いつまでも安心感を届けられるようにしていきたいと思っています。

中澤石材店

所在地:愛知県豊田市上郷町2-1-5
TEL&FAX:0565-21-4477
ホームページ:https://stone-nakazawa.com

いしマガ取材メモ

昔からものづくりが大好きで、最近は「カメラや時計など精密機械の仕組みを調べているのがおもしろい」という中澤さん。お墓や彫刻品をつくる石屋さんの仕事も、まさに天職といえそうです。
ちなみに中澤さんの奥様は、とても明るくてお話好きの方。仕事では主に接客を担当しており、親しみやすい笑顔が印象的で、お客さんとつい話が弾んでしまうこともしばしば。お客さんの中には、お茶を飲みに、ふらっと訪れるような方も少なくないそうです。とてもアットホームな雰囲気のお店なので、「お墓のことがよくわからない」という方も安心して相談できるに違いありません。