彫刻家に聞く「石の魅力とは」Vol.5(遠藤和弘氏)

この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。今回は静岡県島田市で制作されている遠藤和弘さんに「わらべ地蔵展 野のほとけ」会場でお話を聞かせてもらいました。

――石彫家の遠藤和弘さんが考える「石の魅力」とは?

静岡県島田市で制作されている遠藤和弘さん

「僕が石を彫るきっかけは、以前に広告のデザイン等の仕事をしていたのですが、仕事が忙しく体調を崩してしまった時がありました。その時に隣町の藤枝市に住んでいる杉村孝先生の制作したわらべ地蔵のカレンダーを見て“可愛い、癒されるお地蔵さんだなぁ”と思ったんです。

その時は先生の作品を買いたいなぁと思っただけで、自分で石を彫ろうとは思ってはいませんでした。それから先生の個展があり、わらべ地蔵を買いに行ったら全部売れてしまっていたのですが、個展会場に石彫教室の生徒募集のチラシが貼ってあったんです。それで“じゃぁ自分で彫ってみようかな”と思って始めたのがきっかけです。

教室は2005年から入って月に1回、約7年間通いました。生徒は20人位、半分が女性で、平均年齢は70歳位でした。生徒の皆さんはお地蔵さんが彫りたいというだけで通っていた訳なんですが、僕は美術に興味があって、少し知識もあったので、先生と気が合って可愛がってもらいました。  基本的なことは最初の1年間で教えてもらい、後は自由に彫らせてもらいましたが、その頃は半年に1体彫る位がやっとでした。

石を彫ってみて、広告のデザインの二次元の作業と、わらべ地蔵を彫るという三次元の作業とでは全く違うと感じました。  石を彫ることを最初は楽に考えていたんです。やり始めた時は“僕には向いてないなぁ”と思いましたが、彫っているうちにだんだん面白くなっていきました。いま見ると欠点だらけですが(笑)、下手なんだけれども、愛おしかった。  それで次は“もっと良く作ろう”と思い、次の作品に向かいました。

最初の頃は唇が取れちゃったりしたんですが、欠けないようにするには道具の使い方と手順だなぁと、だんだんコツが分かってきて、失敗してもなんとかなるなぁ、といった自信がついてきたので、ここまで続けてこれたんだと思います。  数が増えると嬉しいし、友達が“いいねぇ”と言ってくれると、それが励みになって、調子に乗って70体も作ってしまいました(笑)。  個展をやると知らない人と知り合いになれる。興味を持った人なので話が合うし横のつながりが出来ることが楽しいですね。

石の一番の魅力は、この僕の作ったわらべ地蔵が外に置けるということと、数百年もつということ。  数百年経つと風化して良い感じにボロボロになってきて、もちろん作者の名前なんか分からなくなるわけじゃないですか。それを見た人が、“これ誰が作ったんだかね~”と言いながら、お婆さんが手を合わせてくれたりなんて、300年位先を想像したりすると凄いロマンを感じるんですよ。  このわらべ地蔵がこれからどこに行って、どうなるんだろう。また、この70人がそれぞれ物語を持っていくんだろうと思うとワクワクしちゃいます。

丸彫りは大変ですね。後ろ側は見る人はあまりいませんが、しっかり彫らなきゃいけないですから、石の形を活かしたレリーフの様な、半分彫った陽刻の方が僕は面白いと思っています。  本小松石の墓石に使うような石は、ちゃんとした形の物が出来るし、ボサ石系の柔らかい石の方は逆に表情が柔らかい。そんな感じで石を使い分けて彫っています」

とおっしゃっていました。  遠藤さんならではの皮肌の残し方や、光背の表現の仕方がとっても素敵なわらべ地蔵や六地蔵、また、地蔵だけでなく少し変化をつけたいと思って制作された、砕けた感じの怖くない不動明王等、約70点を発表されていました。