彫刻家に聞く「石の魅力とは」Vol.8(虎尾 裕氏)
この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は岩手県花巻市にあります萬鉄五郎記念美術館八丁土蔵ギャラリーで虎尾裕さんにお話を聞かせてもらいました。
――石彫家の虎尾 裕さんが考える「石の魅力」とは?
「まぁ、石の魅力は削るってことなんでしょうね。昔から引っかいたり削ったりすることが好きで、ヤスリがけが大好きだったんです。 もともと自転車が大好きで、自転車のフレームを作る職業に就きたいと思っていた時期もありました。ヤスリがけしてフレームを溶接したいっていうのが結局石に変わっちゃった(笑)削るとかトンカチ打つっていうのが大好きだったんですね。
幼稚園に入る前くらいはトンカチを持っていれば幸せだったらしいです。家じゅうに釘打って、家が釘だらけなんてこともあったみたいです(笑)削れるものがあれば何でも削りたいと思いますね。木彫で刃物で削って作品を作っていくのも楽しい。あの楽しさにハマったら石は彫れなくなっちゃいますね。
でも、石は何か違うんですよね。石独特の抵抗感っていうか、リズミカルに彫れるっていうのが心地良いんですよね。
今回の「︱山並み︱The mountain range展」は2009年に発表した「よこたわる山」、2010年に発表した「稜線」の、山シリーズのつながりで、山並みを発表したのですが、山そのものをイメージしているという訳ではなくて、稜線とか山の連なりとか尾根筋など、そういった一つの概念を表現している内容です。 山脈とか連山とか、そういったものの一環で連なるものといった感じですね。
の場合は作品にしていくというよりも、行為、その時々に出会った石に関わってどういう風に存在させるか、表現していくか、何かに変容させるといった感じです。
彫刻って元来膨らんでいる豊かな形が多いのですが、あえて凹んで痩せている様な感じで、重量感を消すっていうか、石を使っているんだけれども石に見えない様な質感にすることで、より違うものに見えたりと、そんな感じでボリューム感を消したいと思っています。元来の石彫作品と逆の部分もあるかもしれないですね。
(写真にある)16個の石を並べたメインの作品は会場の空間に合わせて制作しました。手彫りをして、ビシャン、カップ等を使ってから手磨きをしていきました。 表面をガタガタにしたいなぁと思って、色々試してなかなかしっくりとしなかったんですが、こういう作品ってどこかでけじめをつけないといけないので、修行僧が写経を書くような感覚で1日1個ペースで一気に作りました。
最近の感覚としては無心で作品が作れるようになれればいいなぁと思っています。単純な作業の中で形がポンと出来てくる。木彫りの仏像を生涯に約12万体彫ったといわれている円空さんのようなペースで毎日一個ずつ彫っていこうみたいな、そんな気持ちでいます」
メインの作品は虎尾さん独特のアウトライン、面と影で見せている、とっても素敵な作品でした。2階のスペースでは稲井石、伊達冠石、本小松石、大理石等を使った小品を発表されていました。
虎尾さんは1958年東京都三鷹市生まれ。’82年東京芸術大学彫刻科卒業、’84年同大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。個展はギャラリー山口(東京)、ときわ画廊(東京)、ヒノギャラリー(東京)等多数開催。 グループ展、シンポジウムは’93年第5回佐久大理石シンポジウム(長野)、’95年第11回国際彫刻家シンポジウム(チェコ共和国)、2000年白石野外彫刻展(宮城)、’02年東日本︱彫刻(東京ステーションギャラリー)、’05年街かど美術館アート@つちざわ(岩手)等多数開催。
現在は宮城教育大学の教授をしながら制作されています。