この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・上野にあります東京藝術大学で開催された「第64回彫刻専攻修了作品展」で岸本達郎さん、佐野藍さんにお話を聞かせてもらいました。

岸本さん
「僕が石を始めたきっかけはイタリアの大理石の彫刻、特にダビデ像の写真を見たのが原点で、大学に入ったら石をやろうと直感的に思って、なんとなく石の魅力を感じていたんです。
実際に大学に入ってやってみて、造形するのに時間がかかるし、欠けた所は直せないしと、結構難しい所があったりしたんですけど、硬いものを軟らかく見せる、石を石のままにしない、大げさに言うと、素材を超えるような表現になっていけたらいいなって思って制作しています。
カービング(木や石などの素材を削り出して作る技法のこと)をしていくことによって出てくる形が確実にあるなっていうことが石の魅力であり、メリットだと思います。
デメリットはやはり時間がかかるってことですね。制作時間が長いので作っている間に色々と作りたいものが出てきちゃったり、違うアイデアが出てきちゃったり、そういった時に途中で飽きちゃったりすることもありましたが、全体的には石彫は楽しいですね。
特に磨いた時の表現が好きです。コンセプトはでっかい顔を彫りたいなっていうのと、上に乗っている犬もそうですけど、その顔に好きなものをくっ付けて気持ち良く制作したいなって(笑)。あまり言葉発信だとその言葉に飽きてモチベーションが続かなくなるので、好きなもの同士をくっ付けて彫っています。
大学院の時のテーマが“髪の毛”だったので、髪の毛は満足のいく表現が出来たかなと思っています。作品名のガブリーっていうのは犬の名前です。
制作期間は1年位で2000番までペーパーで磨いています。最初は粘土で模型を作って石に置き換えていく形が僕の制作スタイルです」。

岸本さんの黒大理石を使った「ガブリー」

 

佐野さん
「素材としての魅力は、磨いた所と磨いていない所、はつりっぱなしの所とかで、素材自体、マチエール(作品表面の肌合い)にバリエーションがあるのが、すごく魅力だなって思っています。
小さい頃から石が好きで、よく河原に行って石を拾っていました。その時から、重さだったりとか、物質的に自分とかけ離れている感っていうか、ちょっとやそっとじゃ割れたり壊れたりしないような頼もしさを石に感じていて、そういうところ全部が私にとっては石の魅力だなと思っています。
作品にどうして石を取り込んでいるかっていうと、今回の作品のコンセプトにもなっているんですけど、すごく丈夫で永らえる素材だなっていうところが大きくて、私はこの作品を永く残したいと思っているんです。
今回の作品は絶滅をテーマにしていて、狼を題材にしているんですけど、狼が絶滅していってしまうってことと、付いている桜の花が満開になって散るっていうことをからめている作品で、消えて無くなってしまうっていう感じです。
下のレリーフ表現は太古の昔からあるんですけど、過去の雰囲気、意味を表していて、私は狼が絶滅していってしまうってことを今表現していて、さらに石で作ることによって、この動物がいなくなっても私が死んでも残っていく。未来の人がこの作品を見た時に、当時「オオカミ」ってものがいて、作者が絶滅していきそうなものとして、こういう気持ちで作ったっていうのを見てもらいたい。
そのためには石材っていう強くて永らえるものを素材にしないと成立しないっていうか、残すことで意味がある作品なので、石を選んでいるってところがあります。
あと削りながら砥石も当てたり出来る作業感も好きですね。切ったりノミで叩いたり、割ったりヤスリでこすりながら滑らかにしたりといった作業を、ごちゃ混ぜに出来るっていうか、その作業感が好きですね。
今回の作品は半年位かけて制作しました。絵のエスキースを描きながら少しずつ彫り進めていったんですが、私はいつも石がもったい無く感じちゃって思い切ってはつれないので、邪魔な量が残っちゃう状態で作業しなければいけない点で苦労しました」
とおっしゃっていました。

佐野さんのポルトガル産大理石、ローズオーロラを使った「サクラオオカミ」