銘店“石屋”シリーズ  優石(北海道札幌市)

ご家族の一員になったつもりで、親身になって寄り添っていきたい。

平成2年にお墓の文字彫刻・メンテナンスなどを専門とする石屋として創業し、現在も新規のお墓づくりと並行して、お墓のアフターサービスにも力を入れている優石。今回は同社二代目の多田雅洋さんに、仕事に向き合う上で大切にしていること・こだわりなどについてお話をうかがいました。

多田雅洋さん(昭和55年生まれ)
高校卒業後に家業を手伝い始め、28歳から4年間は千葉県の石屋さんで修業。納骨の方法など、地域によるさまざまな違いを学んだことが、今の仕事にも大いに活かされているという。

―まずは会社の歴史を教えてください。

多田 創業者は私の父である多田雄一です。ほかの石屋さんで4~5年ほど働いて経験を積んでから、現在の会社を立ち上げました。ユニークな点は、最初から文字彫刻などの小さな工事を専門にしていたことですね。なんでも創業当時は石屋さん全体が忙しかった時代で、お墓を建てた後に、そうした工事を請け負うところが少なかったそうなんです。しかし父は、「建てた後のフォローこそが大切だろう」と。困っているお客様のお役に立ちたい、という想いで会社を始めたのだと聞いています。
そして、私が父のもとで石屋さんの仕事を始めたのは、高校を卒業した18歳のときでした。実は私が15歳のときに母親を亡くしているんです。それで「残された父親に親孝行できることはなんだろう」と考えたときに、やはり父の仕事を手伝うことかな、と。その想いが、自分にとって石屋さんになる大きなきっかけになりました。

―仕事をする上で大切にしていることはなんですか?

多田 今は小さな工事以外に新規のお墓づくりの仕事も行なっているのですが、メインはあくまでも、文字彫刻や文字への墨入れ、花立の交換、目地の補修などといったメンテナンスが中心です。ですから、まずはメンテナンスについてお話したいと思います。
まず一つは予算的なことですね。たとえば文字彫刻の料金などは、札幌市内のほかの石屋さんに比べても、けっこうお値打ちな方だと思います。
そしてもう一つは、お客様にすべてを説明すること。文字彫刻は大きく分けて、現地で彫る場合と、工場に持って帰って彫る場合がありますが、それぞれのメリットとデメリットは、すべて包み隠さずにお話しています。
簡単にいうと、現地彫りのデメリットは現場が汚れてしまうこともあること。一方で工場に持っていく場合は、その分のコストが余計にかかってしまうんです。
ただし弊社は、現地で彫ることになったら、最初よりもきれいになるくらいに徹底して掃除を行なっていますので、そのことを説明すると、最終的には現地彫りを選ばれるお客様が多いですね。

優石が手がけた墓石のクリーニング・メンテナンス事例

―では、お墓をつくるときに大切にしていることは?

多田 お墓づくりの場合は、お客様がご相談にいらっしゃったら、まず最初に「そもそも、お墓を建てるべきなのか?」ということから確認するようにしています。
これは以前に、お墓を建ててみたものの、その次の年にもう墓じまいになってしまう、ということがありまして、「お客様へのヒアリングが足りなかった…」という反省から心がけていることなんです。
ですから、たとえお客様が「お墓を建てたい」と希望されている場合でも、まずは息子さんやお孫さん、兄弟の方など、それぞれのご家族の状況などもすべてお聞きして、「それなら建てたほうがいいだろう」と判断することもありますし、「もう少し家族で相談してみてください」とアドバイスすることもあるんです。
よくお客様から「商売っ気ないね」と言われることもありますが、これまでにいろいろなケースを見てきた自分だからこそ伝えられることもありますからね。そうやって、それぞれのお客様に対して最適な助言を行なっていくことが、石屋としての大切な使命だろうと考えています。

―プライベートに関することも教えてください。学生時代には、どんな趣味を持っていましたか?

多田 当時はバンドをやっていましたね。ジャンルはパンクです(笑)。いろいろなことに挑戦したい性格なので、最初はドラムから始めて、次にギター、ベース、そしてボーカルと、一通りのことをやりました。

―では最近の趣味は?

多田 う~ん、そうですね。仕事っていうことにしておいてください(笑)。あと、今は子どもがいますので、休みの日は一緒に遊んでいることが多いです。

―特技などはありますか?

多田 いわゆる特技とは違うかもしれませんが、しいていうなら誰にでも優しくできることでしょうか。これは亡くなった母親の影響が大きいと思います。
今でも一番おぼえているのは、「お店などでドアを開けるときに、ほかの人がいたら先に通すようにしなさい」ということ。人に譲ることの大切さを教えてもらった気がしていて、今は子どもにも必ずそうしなさいと教えています。

―多田さんにとって、お墓とはどういう存在ですか?

多田 人は必ず亡くなりますが、残された家族が、その亡くなった方のことを想って、つくることのできるもの。お墓というのは、そういうものだと思いますし、そうであってほしいとも願っています。

―では最後に、今後の目標を教えてください。

多田 石屋さんというのは、ただお墓をつくったり、メンテナンスをするだけではなく、地域の墓守のような存在になるべき業種だと思っています。
そのためにも、お墓をつくるときには、亡くなった方にどれだけ想いを寄せることができるか。そして、残されたご家族に対して、いかに親身になることができるか。そういった姿勢をもっとも大事にしていきたいと考えています。
やはり、しっかりとご家族に寄り添うことができたときって、お墓も自然といいものができるものだと感じています。これからも、それこそ自分がご家族の一員になった気持ちで、精一杯がんばっていきたいと思います。

優 石

所在地:北海道札幌市西区西野9条4丁目8-16
TEL:011-665-7502/FAX:011-665-8488
https://www.yuseki.com/

いしマガ取材メモ

どのような仕事でも、一度依頼を受けたお客さんには、毎年ハガキを送付しているという多田さん。お客さん全体のうち、実に約7割がリピーターという数字からも、いかに多くのお客さんから信頼されているのかが伝わってきます。
そして今回のお話でとくに印象に残ったのは、お母さまが亡くなって30年ほど経った今も、「いまだに見られている気がしている」という言葉。「悪いことをしたら怒られると思っているし、道をはずれそうになったら、きちんと正してくれるんじゃないかと感じています」と多田さんは話します。商売のことよりも、まず第一にお客さんのことを考えるという多田さんの姿勢には、亡きお母さまの影響が強いのかもしれません。