彫刻家に聞く「石の魅力とは」vol.16(高家 理氏/小松俊介氏)

この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・銀座にありますギャラリーせいほうで開催された第78回新制作展彫刻受賞作家展で、高家理さん、小松俊介さんにお話を聞かせてもらいました。

――石彫家 高家理さん、小松俊介さんが考える「石の魅力」とは?

高家さん
「石は何も言わないんだけれども教えてくれる自然の先生のようなところが魅力ですかね。自分の想いだけでは前に進めないんですよね。

石を動かす為の物理的な知識とか、必然的に自然の摂理に沿ったやり方で前に進んでいかないと作品が作れないっていう過程が凄く大変なんだけれども、それが凄く重要だなと思うんですよね。凄く扱いにくい素材だからこそ寄り添わないと作品にすることが出来ないって感じがします。

作品は震災をテーマにしています。私は石巻出身でアトリエは福島県の川俣町にあるんですが、東日本大震災で原発の計画的避難区域になって、震災に随分影響を受けました。
避難生活をして震災後1年位はもう石を彫る道具を見るのも嫌な時期があったけれども、震災をテーマにすることで自分は震災と向き合えるんじゃないかな、折り合いをつけたいな、新たなスタート地点にしようといった想いで制作した作品です。

津波にのまれて九死に一生を得た方の体験談の中で、洗濯機に入れられてかき混ぜられたような状態だったと聞いたことがあったので、回転して巻かれるようなイメージを作品にしました。震災を機に今まで見えなかったものが見えたり、今まで隠されていたものが表面に剥き出しになったり、そういった自然の力、自然の面があるんだなといった想いを込めて制作しました。

いろんな欠点、人の本性、社会の弱点や虚弱さ、はかなさ等は震災を機に表にブワーっと曝された様な所があるので、今まで隠されていたものが表面に湧き出してくる様な感じを表現したいなと思っています。石は外に置いても風化しないっていうのが利点だと思うし、慰霊の為にもこのシリーズの作品を制作していきたいと思っています」。

高家さんの高太石を使った「春の修羅♯2」

 

小松さん
「石の魅力は、彫っている中でイメージが広がるんですよ。初めからイメージがあってそれに向かって形を与えるんじゃなくて。今は石を選んで作品を作っているんです。
ここをこうしようとか、ここを凹ませようとか、膨らませようとかやってる中で見つかってくるのが石の面白さ、魅力なのかなぁ。そのやりとりが石だからこそなのかなぁと思っています。

私は筑波大学の4年生の時に石彫を学んで、石の硬さとか手応えみたいなものが自分に合致したんですね。そこから楽しくなって始めました。

作品は泰山木という花がありまして、その花が散った後に残るめしべの部分、その形が私の根幹にあるんですけど、花びらがポロっと散ると凹んでいる1個1個の跡みたいなのが残ります。その形がいいなぁというところから制作が始まっているんです。

去年初めて泰山木をモチーフにして発表し始めましたが、今回は凹みをメインで作っています。膨らませようと思ってやっている作品だったり、穴を掘ったりと色々試みて方向性が広がった中で、何か興味が絞れた気がしています。それが凹み、凹面の形というか凹んでいるけれども張りのある形っていうのをしてみたいなと思って制作した作品です。

石は福島の浮金石をよく使っています。地元が福島なのでそういった愛着もあります。制作は直彫りでひたすら叩いて形を見つけていくといった感じです。今ある環境がエアーが無い場所なので、手で出来ることを考えてやっています。

作品の題名は記憶の憶っていう一文字をとっています。古代のものを見た時に、何に使われたか分からないものに対して、いいなぁって思える形や感覚があるんですけど、それって記憶の奥深くに誰しもあるんじゃないかなって思って、そういったことをテーマに抽象的な形で作品を作っています。マグノリアは泰山木の学識名です」。

小松さんの浮金石を使った「憶-マグノリア-」

 

今回は福島県の石を使ったお二人に石の魅力を聞かせてもらいました。