彫刻家に聞く「石の魅力とは」vol.19(阿部光成氏)

この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・駒込にありますKOMAGOME1-14casで開催された阿部光成さんの個展でお話を聞かせてもらいました。

――石彫家 阿部光成さんが考える「石の魅力」とは?

「石の魅力っていうことを考えた時に、例えば他の素材の魅力とかも考えていかないといけないと思うんですよ。
何かに対して優れているとか、何かに対して劣っているとかそういったことではなくて、他の素材との違いが、どこかで魅力に変わっていくんだと思います。

石を彫り始めたのは大学の時からなんで、今まで10数年ですけど、僕のなかでは石は猛烈に大好きってことではなくて、絶対に彫りたいとか、ずっと彫り続けていたいとかではなくて、ただ単に彫っている日が続いたって感じなんですよね。
その歩いてきた道みたいなものを振り返ってみた時に〝あぁ、こういうふうにやってきたんだったら意識はせずとも自分の性に合っているんだな〟と思っていて、魅力って聞かれると具体的にこうとは言葉が出てこないんですけど、性に合っているというのは他の素材との違いです。

東京藝大の時は、1年生の時に主な素材を経験して、2年生の素材別実習の時に石を選んだんですね。1年生の時のことはよく覚えています。
もちろん石を彫ること自体が初めてだったので、手をひっぱたいたりとか無垢ノミの焼き入れをしてやっと一生懸命1本ノミを作ったのに、一発叩いただけで折れちゃったりとか徒労感がありました。
ただ、徒労みたいなところに意識が向く一方で、石って彫っていいんだって思ったんですね。もちろん石彫作品でブランクーシなんかは知っていたんですが、まさか自分が石を彫れるとは思ってもみなかったんですよ。

絵を書くことは図画工作でやりますし、木を彫ることは版画とかでやります。でも、石を彫ることとかって今までやってきたことがないことで、漠然とやれる範疇に入ってなかったんですよね。
だから大学の実習で彫って形が変わっていって、原石が少しずつ彫刻のような方向に自分で進められたっていうのが結構楽しくて、その時は21歳でしたが、まだこんなに新鮮に思えることがあるんだって思いました。それでそのまま石をやってますね。

作品のコンセプトは、個展をしているとたまに石彫とかそういったものを知らない人がふらっと寄ってくれるんですよ。その時に〝あ〜こういう形の石を見つけて来たんですね〟と言われて、彫ったということとかが全然そういうことじゃなくて、元々こういう石があったって思う人がいるんですよね。
そういう感じにさせることが出来たってことが自分の中でヤッターって思うことがあって、彫ってるんだけど彫ってないような。けど彫ってるんですけど、そんなようなことが出来ればなぁ〜っていうのがおおもとにあって、割って出てきた形になるべく形がつながるように彫ってるっていう、そんな感じで出てきた形ですね。

作品のタイトルは一応付いてはいるんですが、なかには作品のタイトルに引っ張られちゃう人もいると思ったんですよ。だからタイトルはあるんですが、引っ張られないで見た人が自分なりに見てもらえることが出来たらなと思って、今回は作品にタイトルは貼ってないです。

黒御影石を使った「支えるということ」と阿部さん

個展全体のタイトルは支えるということっていうタイトルです。基本的に手彫りで彫っているんですが、手で彫っているっていうのは機械がちょっと怖いっていうのがあって、カッターのキックバックしてくるところとか想像しちゃうんですよ。
自分の方にビシッってきたら怖いなとか、扱いきれない抵抗感みたいなのがちょっとあって。手だったらなんとか言うことを聞いてくれるって感じなんですよ。すごく自分に距離が近いって感じだし、手でなきゃ出来ない作品って感じではなくって、考えていったら手で彫ることのほうが僕の気持ちのなかではストレスが無かったんですね。

ノミは30本くらい持っていますが、場所や気分によって使い分けながらだいたい6本くらいを回しながら使って1つの作品を彫っています」
とおっしゃっていました。