石コラムVol.21 世界遺産

世界遺産になっている墓地があることをご存知でしょうか。といってもエジプトのピラミッドなどの古代遺跡のことではなく、前世紀に造成された近代的な墓地で、その墓地の名はスコーグスシュルコゴーデンといいます。

この墓地は、スウェーデンの首都ストックホルム郊外にある共同墓地で、ユネスコの世界遺産に登録されたのは1994年のこと。20世紀以降の建築作品としては、世界で最も早い登録となりました。

スコーグスシュルコゴーデンとは「森の墓地」という意味で、ストックホルムの自然と一体化した修景がコンセプトになっています。

人口の増加によって新たな火葬場が必要となったスウェーデンでは、1914年から1915年にかけて墓地の設計コンペ「ストックホルム南墓地国際コンペティション」を行ない、アスプルンドとレヴェレンツという2人の建築家による計画案が採用され、「森の墓地」が誕生することになったのです。

スコーグスシュルコゴーデンは、丘陵地帯の地形をそのまま生かし、森に溶け込むように火葬場も建てられています。「人は死ぬと森に還る」という豊かな森に恵まれたスウェーデン人の死生観が反映されたもので、美しい松林の中に造られた墓地にはさまざまなタイプの区画があり、「追憶の丘」と呼ばれる散骨ゾーンも用意されています。

スコーグスシュルコゴーデンの火葬場は1940年に竣工するまで、四半世紀という異例の歳月を設計と施工に費やしています。アスプルンドは建築家としての生涯をこの墓地に捧げました。20世紀前半に設計されたにもかかわらず、今日でも古さを感じさせない時代を超越したデザインを確立しているといえるでしょう。

今後、はたして世界遺産となるような墓地が誕生するかどうかはわかりませんが、遺産と感じられるような場所に眠ることができるのは、きっと幸せなことだと思われます。