銘店“石屋”シリーズ  有限会社 井上石材店(愛媛県新居浜市)

自社加工にこだわり、“つくる”石屋であり続けたい

愛媛県新居浜市に本店を構える有限会社 井上石材店は昭和23年の創業。現在は3代目の井上崇秀さんが持ち前の腕をふるっている。一番の特徴は、原石の仕入れから加工・施工まで、すべて自社のみで対応できる幅広い対応力。井上さんの“つくる”ことへのこだわりや、今後の展望などについてお話をうかがった。

井上崇秀さん

昭和49年生まれ。平成5年から4年間、石材産地の愛知県岡崎市で修業。技能検定の石材加工・石張り・石積みの3部門において1級の資格を取得した後、平成17年の「第1回全日本石工選手権大会」で優勝を果たした。平成28年には全国石製品協同組合による「石匠位」の認定を受け、また同年に優秀技能者として愛媛県知事表彰も受けている。

―まずは会社の歴史を教えてください。

井上 創業は昭和23年。私の祖父が、新居浜市の萩生というところで始めたのが最初です。その後は昭和20年代の後半に、現在の本店がある中萩町に移転。昭和55年に父が2代目の店主になり、平成20年からは私が3代目として会社を切り盛りしています。

 

―井上さんは、全国有数の石材産地である愛知県岡崎市で修業されたそうですね。

井上 はい。高校を出てから4年間、昼間は岡崎の石材店で修業させていただき、仕事後の夜には岡崎技術工学院という学校へ通うといった日々を過ごしていました。当時の修業先には先輩や後輩もいる5人体制で、親方から怒られるのが当たり前の毎日。それでもやり抜けたのは、自分の負けん気が強かったからだと思います(笑)。
周りを黙らせることができるような技術を身に付けたくて、お昼の休憩のときも、よく昼食を食べたらすぐに石灯籠のところへ行って、メジャーで寸法を測ったりしていました。そのときの資料は、今も大切に保管しています。

 

―現在の仕事内容について教えていただけますか。

井上 メインは墓石ですね。あとは、お寺の永代供養墓に設置する宝塔などといった石塔関係。すべてを自社工場で加工できることが自慢です。原石も自社で保有していて、工場で石を切ることから字彫りなどの加工や仕上げまで、さらに施工も含めて、すべて当社一社で対応できます。

有限会社 井上石材店が保有する大島石の原石置き場(愛媛県今治市)

―その中でも、とくに自信のある技術はなんでしょうか。

井上 仏座などに施される「蓮華」の装飾技法です。花弁のひとつひとつまできれいに反り返ったウェーブを描けるよう、試行錯誤を繰り返して、本当に自分がよいと思えるものだけをつくっています。

 

―ちなみに井上さんは、平成17年に行なわれた「第1回全日本石工選手権大会」で優勝されていますね。

井上 岡崎で修業した期間と、その優勝に輝いたときが、自分にとって人生の分岐点になったと思います。お墓を建立して納骨を行なうときなどに、お客様が「この人、日本一になった石屋さんなんだよ」などと話してくださることもあって、年齢に関係なく、そのように技術面で信頼していただけることは仕事へのモチベーションにもつながります。

優れた手加工技術を持つ井上さん

―井上さんは全国技能士会連合会の全技連マイスターをはじめ、石材加工の愛媛マイスターや厚生労働省のものづくりマイスター、新居浜ものづくりマイスターにも認定されています。まさに仕事一筋といったイメージですが、趣味などはあるのでしょうか?

井上 確かに、仕事が趣味といってしまえばそのとおりなんですが(笑)、最近は陶芸という新しい楽しみができました。始めたのは今から2年くらい前。あるお師匠さんと出会いまして、できたら今後はお弟子さんになりたいと思っているくらいです。
もちろん普段はなかなか時間がとれませんので、もう少し年をとったら、もっと本格的に取り組んでいきたい。今はそんな風に考えています。

 

―お墓づくりも陶芸も、ものづくりという意味では似ているところがありますね。

井上 そうかもしれません。そもそも石屋さんになろうと思う前から、ものをつくるのが好きだったんですよ。

 

―これまで携わったお墓づくりの中で、記憶に残っているエピソードを教えてください。

井上 お客様それぞれにいろいろな思い出があるのですが、その中でも印象深く残っているのは、インドの石で非常に凝った洋型墓石を建てたときのことです。自分でダンボールを使って実物大の模型をつくってしまうくらい、とても熱心なお客様でした。それで毎週のようにお客様のもとへ通って、外柵も含めたデザインについての話し合いを繰り返しながらお墓づくりを進めていきました。
それまで、これほどの大きな仕事を経験したことがなく、お墓が完成したときのお客様の笑顔は今でもよく覚えています。また、このお墓づくりをきっかけに、父親にも認めてもらうことができたと思うので、余計に記憶に残っています。

 

―お客さんのこだわりに寄り添って、全力でご対応されたのですね。ではそんな井上さんにとって、お墓づくりのやりがいとは、どのようなことでしょうか。

井上 石というものは、硬くて重い割に、意外ともろいところがあるんです。石屋さんは、それをいかに加工していくかという、つくる人の技量が問われる仕事。その分だけ、完成したときの達成感には、すごいものがあります。
そしてなによりも、お客様から「ありがとう」という温かい言葉をかけていただける。そういうときに心の底から「つくった甲斐があった」と感じますし、それまでの苦労もすべて吹っ飛んでしまいます。
私たちがつくっているのは、お客様に手を合わせていただくもの。そういった、ほかにはあまりないような仕事に携わることができるのは、本当にありがたいと思っています。

 

―では最後に、今後の目標を教えてください。

井上 今の自分があるのは、これまでいろいろなことで助けていただいた周りの人たちのおかげ。これからも、この仕事を長く続けていくことで恩返しをしていきたいと思っています。
それから、うちの子供は男ばかりの3人兄弟で、ちょうど今、長男が石屋の修業をしているところです。あとはできれば、次男と三男にも続いてもらって、3人で親の自分を超えるような石工になってもらいたい。それが一番の願いですね。
そのためには、まず私が息子たちの目標にならなければいけません。乗り越える対象は少しでも大きいほうがいいでしょうから、自分も頑張っていきたいと思っています。

 

―もう一つ質問ですが、自社加工には、今後もこだわり続けていきますか?

井上 もちろんです。これまで私は口コミと紹介だけで、とくに宣伝を行なわずにやってきましたが、息子たちが「SNSで発信したい」などとなれば、止めるつもりはまったくありません。そういうことは時代に合わせていってもらえばいい。ただし石屋の基本である“つくる”ことだけは、これからもやめないでいてもらいたいと願っています。

 

有限会社 井上石材店

有限会社 井上石材店・本店
愛媛県新居浜市中萩町3-26
TEL& FAX:0897-41-5762

有限会社 上石材店・土居支店
愛媛県四国中央市土居町土居1114-4
TEL& FAX:0896-75-1575

いしマガ取材メモ

全日本石工選手権大会での優勝をはじめ、様々なマイスターの認定など、輝かしい経歴を持つ井上さん。今の時代では少なくなってきた、伝統的な手加工にこだわり続ける石工職人のひとり。さらにそうした技術力の高さだけでなく、お客さんからの要望が多いという高級銘石の愛媛県産「大島石」を中心に、大量の原石を保有していることも同社の強み。もちろん技術にこだわっているからといって、井上さんは決して昔気質の気難しいタイプではありません。明るく気さくな性格で、話もしやすく、お客さんの声にもしっかりと耳を傾けてくれるタイプの石屋さんです。