銘店“石屋”シリーズ  有限会社 恒心(北海道札幌市)

100%の仕事を目指し、長く残っていくお墓をつくりたい

北海道札幌市にある有限会社 恒心は、代表の佐藤恒也さんが41歳のときに始めた石材店。佐藤さんの確かな技術と知識を活かしながら、長く残っていくお墓をつくることにこだわっています。石屋さんを始めたきっかけから、仕事で大切にしていること、さらに趣味のフライフィッシングまで、いろいろなお話をうかがいました。

佐藤恒也(さとうこうや)さん
創業100年以上の佐藤石材店に生まれ、中学を卒業後に石工のまちとして有名な愛知県岡崎市で修業。8年間に及ぶ修業期間に石を叩く技術や石を見る確かな眼力などを養い、北海道に戻って家業を手伝った後、41歳で現在の有限会社 恒心を設立しました。職人としてのプライドを持った確かな仕事ぶりに定評があります。

 

―なぜ石屋さんになろうと思ったのですか?

佐藤 私は函館市に近い木古内町にある佐藤石材店の四男坊なんです。それで中学を卒業するときに、この先どうしようかと考えていたら、父に石工のまちである愛知県の「岡崎」へ行ってこいと言われまして。
ただ、最初はどこか知らないところに行きたかったというのも正直なところです(笑)。ところが石を叩いて3年目くらいになってくると、だんだんと技術が身について、なんとなく石の感覚が掴めるようになってきた。その頃からですね、この仕事がめちゃくちゃ面白くなってきたんです。
岡崎での修業期間は8年間に及びました。それから実家に帰ってきて、上の兄たちと一緒に仕事をしていたのですが、石を叩ける職人ってことで重宝がられて、ほかにもいろんな石屋さんから仕事を頼まれるようになったりして。
そうこうしているうちに、41歳で独立。一つの仕事が次の仕事に、そしてまた次の仕事につながっていくといった感じで、これまで続けてくることができました。

 

―岡崎での修業時代も含め、これまでの経験や技術が活かされていると感じるのはどんなときですか?

佐藤 お店を始めた当初は、自分の工場でお墓をつくることが多かったのですが、今は加工専門のメーカーさんに依頼して製作したお墓を建立するケースがほとんど。そういった仕入れのときなどに、石を見ただけで、触らなくても石の硬さや性質などがわかって、おおよその寸法割なんかも把握できます。そういうときに「これまでの経験が活かされているんだな」と感じますね。
ですから、「これと同じお墓をつくってほしい」と依頼されたときなんかも、その石と加工の内容を見ただけで、つくることができるかどうか、すぐに判断できます。「ちょっと待ってください」と言って、お客様に細かいことを尋ねる必要がないんです。それは施工に関しても同じこと。そういったところに時間を取られないで済むのは、やはりこれまでの経験値によるところが大きいと思います。

有限会社 恒心が手がけた建墓事例

―お墓を建てるときは、どんなことを大切にしていますか。

佐藤 たとえばモノづくりっていうことで考えると、食べ物もモノづくりじゃないですか。ただ、食べ物のおいしさって瞬間的ですよね。でも、お墓っていうのはそうじゃない。それこそ建ててから何十年も経ったあとで、ようやく「ああ、ちゃんとした仕事だったんだな」ということがわかるんです。
だから私は、「長く使ってもらえるお墓を提供していきたい」という想いをもっとも大切にしています。もちろんお墓は、絵画などと違って、つくった人の名前は残りません。しかし、石屋としての責任というのは残っていくものだと考えています。それは敷石や玄関アプローチなど、住宅関係の仕事についても同じですね。どんな仕事でも、常に100%を目指していくべきだと思っています。

 

―ここでプライべートに関する質問として、佐藤さんの趣味や特技はなんですか。

佐藤 それはやっぱりフライフィッシングですね。釣りは小さい頃からやっていて、ルアーを使い始めたのは中学生くらい。それからずっと続けていますので、もう40年近くになります。  毛針も自分でつくって、ケースバイケースで、どのような糸を使うのかなど、すべて自分で考えていかなくてはならないんですけど、これがなかなか釣れないんですよ(笑)。仕事と同じで100%を目指してはいるのですが、相手は生き物ですから、そうそううまくはいきません。だからこそ、面白いんですけどね(笑)。
冬場になると、この年齢でマイナス4℃や5℃といった世界ですから、いろんなものを着込んで、竿とか道具を持って走り回って・・・。ただ、若いときも楽しかったですけど、年を重ねてくると、また別の楽しさが出てくるんですよ。今の夢は、いつか夏のカナダに行ってフライフィッシングをすることです(笑)。

趣味のフライフィッシング用アイテム

 

―最後に今後の目標をお聞かせください。

佐藤 これから進めていこうと考えているのは、インターネットを使った情報発信。そしてゆくゆくは、せっかく始めたお店ですから、後進につなげていきたいと思っています。もちろん、時代に合わせてスタイルが変わることはあるでしょう。ですから、それがどのようなかたちになっても構わないんです。ただ、「石屋」を続けていってほしい。そしてできれば、“職人の想い”というものを受け継いでいってもらいたいと願っています。
今から振り返ってみると、最初に岡崎へ行ったことが、自分の人生の分岐点になったのでしょうね。それも「自分で仕事を選んだ」というよりは、「仕事に選ばれた」という感じもしています。石屋の仕事は本当に奥が深くて、これからも自分の中で100%に達することはないかもしれませんが、少しでもそこに近づいていけるよう、楽しみながら努力を続けていきたいと思っています。

 

有限会社 恒心

有限会社 恒心の外観

有限会社 恒心の工場内にある石材加工機械

所在地:北海道札幌市清田区美しが丘5条9丁目10-8
TEL:011-881-6614/FAX:011-881-6714

いしマガ取材メモ

決して饒舌に語るタイプではないが、黙々とレベルの高い仕事をしてくれる。そんな佐藤さんは、まさに昔気質という言葉がぴったりの職人肌を感じさせてくれます。もちろん、だからといって、とっつきにくいというわけではなく、話していると、人懐っこい笑顔が見え隠れして、「この人に仕事を頼みたい」と感じるお客さんも多いと思います。仕事にかける想いとこだわりは人一倍。本人は「当たり前のことを当たり前にやっているだけ」と謙遜しますが、安心して仕事を任せられる石工職人だと言えるでしょう。