銘店“石屋”シリーズ  有限会社 吉澤石材店(神奈川県川崎市)

江戸時代から、この地で代々守り続けてきた「きちんとした仕事」を受け継いでいきたい。

JR線・小田急線の登戸駅から徒歩1分のところにある有限会社吉澤石材店は、江戸時代の寛政年間(1789~1800年)に創業したと伝えられている老舗石材店。現在は8代目にあたる吉澤光宏さんが、その歴史ある暖簾を守り続けている。今回はそんな吉澤さんに同社の長い歴史やお墓づくりに込める想いなどについてお話をうかがった。

吉澤光宏さん(昭和39年生まれ)
子どもの頃から、将来、石屋を継ぐことを決めており、大学卒業と同時に静岡県の大手石材店で修業。約2年間で現場や営業の仕事を経験した後、地元に戻り、生まれ育った石屋で働き始めた。その後、40歳で代表取締役社長に就任し、現在に至る。

―まずは何よりも会社の歴史の長さに圧倒されます。

吉澤 創業は江戸時代の寛政年間と伝えられていて、今からおよそ230年前になるかと思います。かつてはこのあたりに「石屋河岸」という用水路がありまして、海路で運ばれてきた石が、多摩川を経て、その石屋河岸をたどり、うちまで輸送されていたのだと聞いています。

―吉澤さんご自身の記憶でおぼえていることは?

吉澤 子どもの頃から家の仕事は見ていましたけど、とくに印象深く残っているのは、自分が通っていた小学校の創立100周年の記念碑を、うちの店で建てたことですね。私が小学4年生くらいの頃だったと思うのですが、朝の朝礼で父が感謝状をいただいたことがあって、あの時のうれしかった気持ちは今でも忘れられません。

有限会社吉澤石材店による五輪塔の建立事例

―吉澤さんはいつからこの仕事を始めたのですか?

吉澤 大学を卒業してすぐですね。小さい頃から将来は石屋になると決めていましたので、とくに就職活動もしなかったです。

―大学時代の一番の思い出はなんですか?

吉澤 いろいろありますが、アルバイトでの思い出は印象深く残っています。大学時代の4年間、モスバーガーでアルバイトをしていまして(笑)。たまたま始めたアルバイトだったのですが、最初の3年間は川崎市内の向ヶ丘遊園にあるお店で働いて、次は都内の下北沢にあるお店で1年間。はじめの頃は何もできなかったのが、経験していくうちに、いろんなことができるようになっていって、最終的には接客からキッチンまで、ほとんどすべての仕事ができるようになっていました。バイト仲間も良いメンバーに恵まれ、みんなでよく遊びに行ったり食事へ行ったりして、良い思い出しかありません。

―当時の経験が今の仕事に活かされている部分はありますか?

吉澤 接客業は経験しておいてよかったと思います。いわゆる社会勉強ですよね。実は今もときどき無性に食べたくなる時があって(笑)、自分にとってモスバーガーというのは特別な存在になっています。

―仕事をする上で大切にしていることはなんですか?

吉澤 お墓をつくる仕事が多いのですが、いつも「しっかりしたものをつくっていきたい」と思っています。そういう想いは、それこそ先代の父や、さらにもっと昔の時代から、うちの店が大切にしてきたことでもあるんです。
ときどき、先代や先々代がこれまでにつくってきたお墓を解体する機会もあるのですが、そういう時に昔の仕事ぶりがよくわかるんですよね。基礎にしっかりと鉄筋が入っていたり、石と石のあいだにすべて鎹が打ち込んであったりして、「ああ、よくやってあるな、うちは代々こういう仕事をしてきたんだな」と。そういうのを見るたびに「自分もこういった姿勢を守っていかなければならない」と想いを新たにしています。

―長い歴史の重みを感じる意見ですね。

吉澤 あとは、お客様に安心していただくことですね。たとえば、お墓づくりをする上で、「このような形にしたいと思っているのですが、大丈夫でしょうか」などというご質問をいただくこともありますが、「お墓をつくること自体が絶対的に良い行ないなので、ご先祖さまも喜んでくれますよ」というお話をしています。
お墓は、そこに眠られているご先祖さまと心を通じ合わせられる場所だと思います。そのご先祖さまが、心を通い合わせるためにお墓づくりをすることに対して、喜ばないはずはない。このようなお墓づくりの意義などをお伝えしていくのも、私たち石屋の役割だと思っています。

―最近の趣味などはありますか?

吉澤 時間があるときは、よく一人で古い石造物を見に行きます。それで家に帰ってから、撮ってきた写真を見返したり、インターネットでほかの石造物と見比べたりして。そういうことをしているのが好きですね。

―いつ頃からの趣味なんですか?

吉澤 40代になってからです。お墓の勉強会に参加し、奈良から京都にかけて、歴史的な石造物を見学しに行ったのがきっかけです。もともと、うちの先祖が建てた石造物を見て回るのが好きだったので、そういう素地は昔からあったと思います。最近は鎌倉に行くことが多くて、800年くらい前にできたものを見ていると、なんだかロマンを感じます。
それで、自分がつくっているお墓のことも考えてみたりして。お墓も100年や200年で朽ちるものではないですからね。長く残っていくものをつくっているからこそ、「きちんとした仕事をしていきたい」という想いにも繋がっているんです。

―最後に今後の目標を聞かせてください。

吉澤 お客様の満足を追い求めていくことはもちろん、できれば最終的に「吉澤石材店で建ててよかった」と思っていただけるようなお墓づくりを行なっていきたいです。
とにかく仕事をする上では絶対に手を抜きたくありません。お墓は自分が亡くなった後も残っていくものですから、心から満足できるものをつくっていきたい。もちろん第一にはお客様のためですが、石屋として出来る精一杯の仕事を、これからもずっと続けていきたいと思っています。

 

有限会社 吉澤石材店

有限会社吉澤石材店による叩き仕上げの五輪塔建立例(岡山県産「犬島石」で制作)所在地:神奈川県川崎市多摩区登戸3511
TEL: 044-911-2552 /FAX:044-911-4911
https://yoshizawasekizai.com/

いしマガ取材メモ

およそ230年にもわたって代々続く有限会社吉澤石材店。東京都府中市にある大國魂神社や、神奈川県藤沢市の江島神社などの灯籠には、2代目である伊勢屋藤三郎さんの銘が残っています。
そんな老舗を受け継いだ8代目の吉澤さんは、非常に勉強熱心なタイプ。最近では重要文化財に指定されている石造物などを見学し、石屋としての目を養っているほか、地震によって被害を受けたお墓の視察にも参加し、どのような状態で倒れているか、接着剤の剥がれ具合はどうかなど、実際の状況を見て回ることで、墓石施工への学びを深めています。
取材時にも言葉の端々から高いプロ意識が感じられ、このことも長年にわたって支持され続けている同社ならではの伝統だといえるでしょう。