彫刻家に聞く「石の魅力とは」vol.14(天野浩子氏)

この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・上野にありますいりや画廊で開催された天野浩子さんの個展でお話を聞かせてもらいました。

――石彫家天野浩子さんが考える「石の魅力」とは?

「石の魅力は時間だと思います。私よりも、もちろん長い時間を経て、昔の生物なり溶岩等が固まって出来ているので、石は時間の凝縮だと思っているんです。そこが魅力であって、逆に脅威を感じることもあります。

小学校の時に母の旅行に付いていって、イタリアに行く機会がありました。ヨーロッパって石文化じゃないですか。それで色々な石造物を見て“石ってすごいな”と思いまして、その頃から石を触りたいって思い、女子美術大学に入って、他の素材も経験しましたが、もう眼中に無いというか、石、石って感じで。とにかく石が大好きで、石の作品ばかりを作り続けていました。
特に黒御影石が好きで、はつった時の返してくる力がすごく魅力的なんです。会話のキャッチボールみたいな、そんなイメージがあって、自分と黒御影石が合うなと思っています。硬い石が好きというよりも黒御影石の反発力が好きなんです。

作品のコンセプトは、最初の出発点は雪景色みたいなイメージで、何かの上に雪が積もっていると。何かは分からないけど、そこに何かあるっていう存在感だけが抽出されているみたいなイメージがありまして、そこから、その物は分からないけど、存在感だけ出していくこととか、物と自分の間の、つまり雪みたいな中間の存在、媒体の存在みたいなものを作りたいなと思って、こういったニョロっとしたものや、ふわっとした形になっています。

今回、この画廊でやらしてもらうと決まった時に、入口の長方形や三角形の形をした窓が印象的だったので、皆さん入る時に、この窓から一度は中を見るだろうなと思いまして、その窓から見た風景を作ろうと思って、この配置にしました。

雪景色的なイメージも少し残っています。これは2012年からのシリーズなんですが、降り積もっていくものとか、いま私は30歳なんですけど、30年の時間が降り積もっていくもの、その降り積もっていく時間に埋もれていくものもあるけれども、絶対に忘れない何かがあったりとか、下にあって忘れているけれども、いつかホッと思い出される何かがあったりとか。降り積もってつながっていくもの、堆積されていく時間みたいなテーマを石から発信していきたいと思っています。

今回の画廊はグレーの絨毯が敷いてあって、私は黒とかグレー系の石をよく使っているんですが、そういった色の石だと作品が沈んでしまうって感じだったので、黄色とか赤とかいろんな石の色を使ってやってみたいなぁと思いまして、いろんな所からいろんな種類の石を25個かき集めてきて、25個一組の作品として制作しました。

最初は1個だけで発表したのですが、それから2個一組になって、2個だと空間と作品の関係性みたいのが出るじゃないですか。その次に4個になって、徐々に増えていって、結果的に25個になりました。仕上げは艶は出ないくらいで、触り心地を大事にしているので、触って気持ちいい番数で、色味を抑えた感じにしています。かけても500番までです」とおっしゃっていました。

御影石、大理石、砂岩、泥岩、小松石、房州石等を使った「a sleety day」と天野さん

私が個展を見せてもらったのは3月7日・8日に東京・上野公園で開催された「NIPPON石博」の前日で、次の日に天野さんは藝大の准教授である原先生と一緒に私が担当でおりました「ふるさとの石」ブースに寄って下さいました。

「石博」は一般の方を対象にしたイベントでしたので“彫刻家の方にはちょっと面白くないイベントなんじゃないかなぁ”と勝手に思い込んでいましたが、天野さんと原先生は「とっても面白いイベントです」と、とても喜んでいらっしゃいまして、“石博やって良かったなぁ”と改めて思った瞬間でもありました。