楽しい石入門 15時間目「最終回・特別編 乾先生の野外調査に同行!」
日本列島誕生時の基盤を観察
記者 さて本日は、最初に残念なお知らせがあります。いつもご好評をいただいておりました当連載が、今回で惜しくも最終回ということになってしまいました…。
先生 前回の連載も含めると、ずいぶん長くやらせていただきましたからね。
記者 というわけで、本日は最終回記念の特別編です!先生と研究室の皆さんの野外調査に同行しまして、都内から電車に揺られること約2時間。秩父鉄道・野上駅から歩いて10分ほどの三波川変成帯の露頭に来ております。
ところで先生、こういった野外調査は定期的にやってらっしゃるんですか?
先生 そうですね、今年はこれで3回目です。ここは県立の長瀞玉淀自然公園の一部で、付加体の岩石が広域変成作用を受けてできた地質帯なんです。
記者 うっ、いきなり専門的な説明ですね…。
先生 わかりやすく言いますと、ここでは日本列島ができたときの基盤を調べることができるんです。よくご覧になっていただくと、ほら、ここらへんは全て硬い岩盤ですよね。つまり、最近積もった地層ではないのです。
記者 なるほど…なんだか、全体的に緑っぽい石が多いんですね。
先生 これは緑色の鉱物が多く含まれているからです。ということは、大昔に海底をつくっていた玄武岩が変成作用を受けたものである可能性が高いですね。
記者 玄武岩だと、緑色の鉱物が多いんですか。
先生 堆積岩起源の変成岩ですと、プランクトンの死骸などに由来する炭質物のために、黒っぽい石が多いですけどね。
記者 ちなみに、その大昔というのはどれくらいの…?
先生 プレートの作用でいったん地下に潜り込んだのが、おそらく恐竜がいた頃。1億年ほど前でしょう。そして、もう一度地表に出てきたのは、たぶん5000万年ほど昔なのではないでしょうか。
記者 5000万年も大昔なんですか!?

この大きな岩の全体が変成岩です
変成岩の片理から推察できること
記者 ところで、こうして先生のお話を聞いている間にも、学生の皆さんがいろいろなところに散らばって…それぞれ、どんなことを調べているんですか?
先生 もちろん、1人ひとりの研究内容によって違うんですけれど、たとえば石が割れた痕跡を観察したり、変形のしくみを調べたり。あとは、実際に来てから面白いものを探すという場合もありますね。
記者 そういう割れた痕跡や変形のしくみというのは、観察しているだけでもわかるものなんですか?
先生 たとえば、この足元の変成岩を見てください。ミルフィーユのようなシマシマがあるでしょう。これは片理といいまして、板状の鉱物が全て同じ方向に並ぶことによってできているんです。しかもよく見ると、ほら、曲がっているのがわかりますよね。
記者 あ、本当だ!
先生 こういった曲がり方と傾きや向きを見ることで、この一帯の変成岩が地中から地上に出て来る時にどのように変形したのかがわかるかもしれません。
さらに言うと、どんな鉱物でできているのかを調べれば、どれくらいの温度や圧力を受けたのかもわかってくるんです。
記者 な、なるほど…!
先生 それに、たとえば断層の痕跡があった場合は、遠い過去に起こった地震の震源を見ていることになるのかもしれないんですよ。
記者 すごい!そうなんですか!
先生 さて。ではそろそろ、もう1ヵ所のところに移動しましょう!

白い線状のものは、岩石が割れてできたクラックに石英が沈殿した部分なのだとか。
過去の論文と照らし合わせる
記者 先ほどの川岸から、さらに歩いて約15分。先生の研究室は、皆さんの仲が良くて、なんだかすごく楽しそうですね(笑)。
先生 そうですね(笑)。研究室によっては、もっとハードルを高めにしているところもあると思うのですが、私の場合は、それよりもまず楽しむことにスタンスを置いているんです。地質学の分野では、こうした野外観察の回数が多ければ多いほど経験値が上がりますし、その経験が卒業研究にも役立ちますからね。
記者 ふむふむ、そういった意図があるんですね…としゃべっている間に、本日2ヵ所目の川岸に着きました。さて、次はどんなことを観察するのですか?
先生 この露頭に関しては、すでにほかの研究者によって書かれた論文があるんです。ですから、その論文の図を見ながら、実際の露頭と照らし合わせたりするんです。
記者 なるほど~。
先生 あとは石の種類を確認したり。やはり見る人によって解釈が違うこともありますから、こうやって現地へ来て、自分の目で確認することがとても大切なんです。
記者 いや~、すごく勉強になります!ひとくちに地質学の研究室といっても、実際にどんなことをしているのか?もちろん、これが全てではないでしょうけど、その一端を垣間見られて非常に興味深いです。
先生 それは良かったです(笑)。では、もう少しだけ観察を続けてから、みんなで昼食にしましょう。
記者 いいですね!では先生、ひとまずここで、読者の皆さんに一言お願いできますか?
先生 わかりました。では、これまで数年間に渡ってご愛読いただきまして、本当にありがとうございました!また別の機会にこうして紙面上でお会いできる日を楽しみにしています。
記者 先生、本連載は今回で終わりですけど、これからもいろいろとご協力ください。こちらこそ、長い間ありがとうございました!

途中で移動して別の川岸に。ここでは地質図や先行研究を参照しながら観察を行ないました。


