この企画では、彫刻家が感じている「石の魅力とは何なのか?」、「なぜ石で彫刻を作っているのか?」ということをお聞きしていきます。
今回は東京・根津にありますLIBREで開催された新妻 篤さんの個展でお話を聞かせてもらいました。

――石彫家 新妻 篤氏が考える「石の魅力」とは?

「石の魅力はやっぱり素材、物質としては本物じゃないですか。
そういった部分が大きいし、彫刻を彫るとなると遅さがすごく重要だと思うんですよね。原始的な頭と体を動かして出てくる形、ものっていう表現をする時のスピードレースみたいなものがあったとしたならば、石を彫っている人は最後尾みたいな感じになると思います。

作品を作る時の作業の遅さもそうですし、何かが見えてくるまでに時間がかかります。今の時代はパソコンをパチッと押すと何でも見れちゃうような時代ですが、石は何をやっているのっていう位に手間を掛けないとものが出来上がってこない。
そういうところに意味があるのかは分からないですけど、やっぱりそういった早い表現には出てこないものがあるのかなっていう気持ちでやっています。他の素材に比べると、どうやっても時間がかかる、ちょっとずつしか形が出てこないっていう要素が自分に合ってると思います。

藝大の頃はいろんな素材でやりましたが、石は唯一面白さがわからなかった。最初に実習で作り終えた後に、何かよくわからなかったなぁっていう思いがあって。その後に今度は自分で石を買いに行くっていうところから始めて大理石を彫ったんですけど、その時にこれを彫ってわからなかったら、もう石はやめようかなと思ったんですけど、何か少し引っ掛かるものがあったんですね。
大学の同じ場所で具象で作品を作っている先輩がいて、その人がものすごく上手く彫る方で、それを横で見ていた時に、この位まで根気よく彫って追求すれば何かが見えてくるのかなってその時感じて。それからは彫っていて楽しくなり、石という一つの素材に絞ってやっていこうかなって思うようになりました。

やっぱり石を彫っていった時の素材の感じは、他の素材には無い感じだなと思っているので、石の魔力というか惹きつけられるもの、やっていると離れられなくなるというか、そういった魅力が石にはあるんでしょうね。

大理石を使った「潜水式」と新妻さん

作品は人体と部屋の空間にあるようなものを作っています。僕はわりと作っている時に、最初にメッセージというよりは保管しておきたいイメージみたいなものがあって、それは音楽を聴いた時のイメージだったりとか、小説の文節の一行だったりとか結構いろいろなんですけど、そのイメージを目に見える形に残したいなっていうのが作品を作るコンセプトとしては一番最初にあって、イメージを形として残すのに今のところ一番良い素材だなと思っているのが石なんです。

彫っていて楽しいのは人体で、彫りながらああでもないこうでもないって形を動かしながら作っていけるモチーフを基本的に選んでやっています。大学の時も具象の彫刻をやっていましたが、いろいろな素材をとっかえひっかえ使って、今よりもコンセプチャルというか、これはこういった意味、意図やメッセージがあってっていう作品を作っていましたが、続けていると面白くなくなってきて、自分の性分的にはもっと、いわゆるアカデミックな本当に古典的な彫刻をやっていたほうがいいのかなっていう思いがだんだん出てきました。

石を扱ってからは作業のスピードであるとか、彫っていって出てくる形の癖であるとか、そういったやり方が飽きずに続けていけるのかなって思っています。あとは人がいる部屋の中や身の回りの落ちている空き缶等、とるに足らないようなモチーフを彫って置いてみるっていうようなこともやっています。アンニュイな感じというかそういったものをちょっと出そうとしています」
とおっしゃっていました。

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今回の会場は、昼間はギャラリー、夜は彫刻を見ながら飲める日本酒バーというちょっと変わった空間での個展でした。