銘店“石屋”シリーズ  有限会社協和石材工業所[石重](東京都世田谷区)

100年後にも喜ばれるお墓をつくり続けたい

長年にわたり、東京都世田谷区を中心に都内全域でお墓をつくり続けている(有)協和石材工業所。現在は4代目の笹本昇次郎さんが中心となって会社を切り盛りしています。最大の特徴は、今も伝統的な手加工の石工技術を受け継いでいること。確かな技術と誠意をもとに、〝100年後にも喜んでいただけるお墓づくり〟を大切にしています。

笹本昇次郎さん(昭和63年生まれ)
墓石や記念碑、神社仏閣の石工事など、石材関係全般の事業を手掛けている協和石材工業所の4代目。子どもの頃からお墓が身近な生活を送り、自宅の近くにある墓地には毎日のように足を運んでいたという。特技は中高と続けた柔道で黒帯の持ち主。趣味は音楽鑑賞で、とくにミスチルが好きとか。家庭では2児の父でもある。

―まずは会社の歴史を教えてください。

笹本 創業者は私の曾祖父にあたります。静岡県下田市から上京し、都内の石材店で修業を積んだ後、協和石材工業所の前身にあたる笹本石材を創業したと聞いています。
その後、2代目の祖父の時代から現在の世田谷区宮坂でお仕事をさせていただくようになり、現在の協和石材工業所に名を改めたのは昭和31年のこと。そして3代目の父を経て、現在は私が4代目を継がせていただいています。

4代目である昇次郎さんご自身は、いつ頃からこのお仕事を?

笹本 大学を卒業後、「一度は外に出たほうがいい」という父からのアドバイスを受け、最初はまったく業種の異なる食品業界に就職しました。そこで3年ほど働きまして、家業を継ぐために実家に戻ってきたのは27歳の頃。父の体調が悪くなり、「戻ってきてほしい」といわれたことがきっかけでした。たしか平成27年のことだったと思います。

その後、ご自身にとって転機になったような出来事はありますか?

笹本 実をいいますと、父は私が29歳のときに亡くなってしまい、「これからも石屋として生き残っていくためにはどうすればいいのか?」と悩んだ時期もありました。それもできれば、お墓の据え付けなども外注に頼らず、父のように自分でこだわりながらやっていきたい。もっといえば、祖父が使っていた手加工の道具もいっぱい残っていましたので「祖父のような技術を持った本物の石屋になりたい」という想いもありました。
そうしたところ、たまたま同業者のつながりを通して、東京都石工技能士会(東京石工会)の会員になることができたんです。そこで偶然出会ったのが、小平市に工房を構える「一銀石材」の稲田圭二郎さん。石工技能の全国ナンバーワンを決める大会(技能グランプリ)で金賞に輝いたり、優秀な技能者しか選ばれない全技連マイスターに認定されたりと、錚々たる経歴を持った方です。その稲田さんから直々に手加工の技術を習い始めたことが、今につながる大きな転機になったと感じています。

伝統的な手加工の石工技術を受け継ぐ笹本さん

―その手加工の魅力とは、どんなところにあるのでしょうか?

笹本 原石の状態から自分の腕と道具でかたちをつくっていく。その面白さに尽きると思います。とにかく手加工の世界は、とても奥が深くて終わりがありません。
それに以前、お施主様からお墓の外柵の修理を頼まれたときに、手加工の技術があったことで非常に喜んでいただけたこともありました。石製品の修理というのは、直せる技術を持っていないと、一部しか壊れていない場合でも全部を変えなくちゃいけなくなる。そうすると当然費用もかさみますし、代々大切にしてきたお墓とは別物になってしまう。
そこで私は、昔と同じ手加工の技術を使って、壊れているところだけを直し、昔と同じ仕上がりにしたんです。そうしたら涙を流して感謝していただけて。あのとき「ご先祖様が建てたお墓を大切にしたい」というお客様の気持ちにしっかりと寄り添えたことは、自分にとっても大きな誇りと自信になりました。

このお仕事でやりがいを感じるのはどんなときですか?

笹本 お墓を建てるということは、よくよく考えてみると、その人に対しての最後の仕事をお引き受けするということですよね。そういう最後の大切な仕事に関われるということは、自分にとっても大きなやりがいになっていると思います。
それに最後の仕事だと考えると、なおさらのこと、絶対に手を抜くことはできません。中には安さをウリにする石材店さんもありますが、それをやろうとすると突貫工事で日数を短縮したり、いろんなところにしわ寄せがきてしまいます。そうするとお墓が出来上がったばかりの頃はいいですが、果たして10年後や100年後にはどうなってしまうのか?
お墓というのは、お盆やお彼岸の度にみんなで集まったり、家族・親族の絆を深めるためにもすごく重要な存在です。それなのに「つくったはいいけど、10年後に傾いてしまった・・・」みたいなことには絶対にしたくありません。そうではなく、何代先になっても手を合わせてもらえるようなお墓をつくりたい。そうしてたとえば100年後とかに「やっぱりあのとき協和石材にお願いしてよかったね」と思っていただけるようにしたい。そういうことを常に意識しながら仕事をするようにしています。

―最後に今後の展望をお聞かせください。

笹本 まずはなによりも、お客様に喜んでいただけるような手加工の技術を今後もさらに磨き続けていくこと。幸いにも今は東京都石工技能士会に同じような志を持った十数名の仲間がいて、みんなで切磋琢磨しながらお互いを高め合っていくことができています。
そうして私が祖父や父から受け継いだ技術を、これから先の未来にも残していきたい。きっとそれこそが、たくさんのお客様の大切なお墓を末永く守っていくことにもつながっていくだろうと確信しています。

有限会社 協和石材工業所(石重)

所在地:東京都世田谷区宮坂1丁目40-11
TEL:03-3429-4385
ホームページ: https://www.kyowasekizai.com

いしマガ取材メモ

近年はさまざまな機械の進化に伴い、お墓づくりにおいてもいわゆる機械加工がメインになってきています。そんな中で、あくまでも昔ながらの手加工を守り続けていこうとしている協和石材工業所。詳しい話を聞く中で、あらためてそうした伝統的な技術の利点や魅力に気付かされました。
また、今回の取材には師匠にあたる稲田圭二郎さんも同席。昇次郎さんについて「とにかく真面目で正直な性格。技術的な面でも、1級石材施工技能士の資格を取得しており、まだ全国のトップクラスには及ばないものの、すでに申し分のないレベルにある」と、目の肥えたその道の先輩からも心強いお墨付きをいただくことができました!

笹本さん愛用の石工道具

笹本さん愛用の石工道具